2017 年 56 巻 2 号 p. 154-159
嗅神経芽細胞腫は嗅粘膜上皮から発生する悪性腫瘍で,今まで鼻腔側および頭蓋側の両側からのアプローチによる摘出術が行われてきた。近年,内視鏡下鼻内手術の適応拡大が急速に進み,頭蓋底疾患に対しては良性腫瘍や一部の悪性腫瘍においても内視鏡下鼻内手術が用いられてきている。嗅神経芽細胞腫に対しても内視鏡下鼻内手術による摘出術の報告が多くみられ,本邦においても良好な成績が報告されている。しかし硬膜浸潤の有無により5年生存率が大きく異なると報告され,特に頭蓋内浸潤したKadish分類 Stage Cにおける術式選択は施設間により異なる。
我々は頭蓋内進展を伴った嗅神経芽細胞腫に対し経鼻内視鏡的アプローチにより摘出した一例を経験したので報告する。症例は60歳男性,鼻閉,嗅覚障害を主訴に当院を紹介受診となった。鼻内内視鏡所見にて総鼻道を占拠する赤色腫瘤を認め,副鼻腔MRI所見では総鼻道から嗅裂最深部に広がる腫瘍性病変を認め,頭側は篩骨篩板を越えて頭蓋内へ進展していた。全身麻酔下で内視鏡下に鼻内から腫瘍を摘出した後,大腿四頭筋膜と鼻腔底粘膜を付けた大きな鼻中隔粘膜弁を用いて頭蓋底を再建した。術後放射線治療を実施し,術後12ヶ月を経た現在合併症や再発は認めていない。頭蓋内に伸展する嗅神経芽細胞腫の場合でも内視鏡下手術による摘出は可能であり,そのために耳鼻咽喉科医と脳神経外科医とで経鼻内視鏡頭蓋底手術チームを結成が重要と考える。