日本鼻科学会会誌
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症例報告
上顎洞を貫通し蝶形骨まで達した園芸棒異物例
原 麻梨子菊田 周佐藤 拓近藤 健二
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2023 年 62 巻 4 号 p. 645-650

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抄録

上口唇から刺入し上顎洞と翼口蓋窩を貫通し蝶形骨にまで達した異物症例を経験したので報告する。症例は74歳女性で,自宅で転倒し鉄製の園芸棒が上口唇右側へ刺入したため救急搬送された。受傷時の意識は清明で,軽度の側頭部痛以外の自覚症状は認めなかった。頭部単純CTでは上口唇右側より刺入した園芸棒が上顎洞前後壁を貫通し,蝶形骨大翼まで達していることが確認できた。異物先端の形状が不明であることに加え,引き抜く過程での髄液漏,大量出血,異物の破損等の危険性を考慮し,明視下での異物除去を試みた。全身麻酔下に上顎洞内部を貫通する園芸棒を内視鏡で確認したが,異物を引き抜いた後に,棒先端のゴム製キャップが翼口蓋窩に遺残していた。そのため追加で遺残物を内視鏡下に摘出した。摘出後の経過は良好で創部からの出血や感染は認めなかった。後日,同種品と比較し,異物に破損がないことを確認した。口唇から頭蓋方向への経路には,三叉神経第II枝,顎動脈,視神経管が存在する。そのため,これら構造物の副損傷の有無の正確な把握が,適切な治療法を選択するうえで肝要である。先端形状が不明な異物の場合は明視下で除去を試みること,さらに摘出後は異物の破損がないことを同種品で確認することが体内遺残のリスクを減らすうえで望ましい対応と考えられる。

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