日本鼻科学会会誌
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62 巻, 4 号
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報告
原著
  • 佐藤 豪, 神村 盛一郎, 石谷 圭佑, 遠藤 亜紀, 福田 潤弥, 金村 亮, 庄野 仁志, 近藤 英司, 東 貴弘, 北村 嘉章
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 4 号 p. 598-604
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    バーチャルリアリティー(VR)を用いた内視鏡下鼻副鼻腔手術シミュレーション実習の医学生に対する有用性を明らかにする目的で,Bedside learningにおける医学生の鼻副鼻腔の解剖学的知識や内視鏡下鼻副鼻腔手術の手技に関する理解度を指標とした検討を行った。実習前後に鼻副鼻腔の解剖学的知識を問う筆記試験と手術手技の理解に関する自己評価を実施した結果,筆記試験の正答率は平均57.6点から88.8点へ大幅に上昇した。手術手技に関する自己評価では,「よく理解できた」「ほぼ理解できた」と答えた医学生の割合は,上顎洞の開放で82.6%,前頭洞の開放で81.2%,蝶形骨洞の開放で82.6%であった。鼻科手術と耳鼻咽喉科自体に関して興味を持つことができたかについてもLikert尺度を用いてアンケートを行い,鼻科手術に「かなり興味を持てた」「興味を持てた」と答えた医学生の割合は鼻科手術で95.7%,耳鼻咽喉科自体では94.2%であった。バーチャルリアリティーを用いた内視鏡下副鼻腔手術シミュレーション実習は,医学生の鼻副鼻腔の解剖学的知識と手術手技に関する理解度を向上させることが可能であり,医学生が鼻科手術のみならず耳鼻咽喉科の診療科に対して興味を持つことにつながると考えられた。

  • 飯村 慈朗, 宮脇 剛司, 細川 悠, 鴻 信義, 森山 壮, 中島 大輝, 竹内 直子, 山住 彩織, 阿久津 泰伴, 小島 博己
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 4 号 p. 605-611
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    近年では,従来行われている鼻中隔矯正術に加え,鼻柱切開を行わない前弯矯正術や鼻柱切開による鼻中隔外鼻形成術も行われるようになった。しかし厚生労働省により定められている鼻中隔手術の診療報酬には,前弯矯正や上弯矯正,外鼻矯正などの概念はない。また外鼻形成術の診療報酬には,鼻中隔矯正という概念は含まれていない。現在の診療報酬は,鼻中隔手術の進歩からくる労力を反映していない可能性がある。そのため今回我々は,鼻中隔手術についての現状分析を行うことを目的として,全国の主要施設に対しアンケート調査を施行した。

    調査を行った施設のうち,75%の有効回答を得た。前弯矯正術と鼻中隔外鼻形成術は,60%以上の多くの施設で行われていた。鼻中隔外鼻形成術を行う科は,63%の施設が耳鼻咽喉科と形成外科の合同手術であった。前弯矯正術は,従来の鼻中隔矯正術より高い卒後年数の医師が執刀しており,手術時間は有意に長い時間を要していた。鼻中隔外鼻形成術は,従来の鼻中隔矯正術より高い卒後年数の医師が執刀しており,鼻中隔矯正術や前弯矯正術と比較してより有意に多くの医師数・手術時間を要していた。

  • 加納 康太郎, 井上 有美, 井藤 雄次, 石田 航太郎, 松下 安理華, 伴 昭宏, 岡村 純, 三澤 清
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 4 号 p. 612-618
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    鼻中隔前弯に対する鼻中隔矯正術において,鼻中隔尾側端から手術操作を行なうHemitransfixionアプローチによる手術が有効である。同術式は,鼻中隔軟骨尾側端を露出させ鼻中隔軟骨を適切な形や長さに調整するという考え方であるが,強度の要であるL-strutに操作を加えるため繊細で慎重な手技が求められる。Modified Cutting and Suture Technique(以下,MCAST)は,鼻中隔軟骨の処理と再固定に関する1つの方法であり,前鼻棘の離断が不要であることやSeptal batten graftが必須ではない点において簡便で有用な手術手技である。今回,同術式を施行した9症例に関してその有用性を検討した。術前後における副鼻腔CT検査において,全症例で鼻腔面積比の有意な改善を認めた。また,自覚症状スコアにおいても有意な改善を認め良好な成績を得ることができた。鼻尖下垂の評価として術前後のCTにおける鼻柱口唇角と鼻尖の高さを比較したが,有意な変化は認めなかった。これらの結果から,MCASTは簡便でありながら軟骨の強度や安定性において有用な方法であると考えられた。

  • 上田 航毅, 小林 正佳, 竹内 万彦
    原稿種別: 原著
    2023 年 62 巻 4 号 p. 619-624
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    Endoscopic Modified Lothrop Procedure(EMLP; Draf type III)は内視鏡下に広く骨削除を行い,前頭洞を単洞化する手術である。最大の問題点は,開大した前頭洞口が狭窄することであるが,その誘因は十分に解明されていない。そこで今回,当施設で2008年9月から2021年10月までにEMLPを施行した術後前頭洞口所見の長期経過とその誘因を検討した。狭窄予防策として術中に可能な限りの骨削除を施行した。また,粘膜腫脹による癒着の抑制と抗炎症作用を目的として経口ステロイドとキチン製材での創部パッキングを施行した例と,しなかった例を比較検討した。全症例数は70例で,平均年齢は59歳,術後の平均観察期間は53ヵ月であった。狭窄例は11例(16%)で,そのうち閉塞例は3例(4%)であった。内視鏡下で明らかな狭窄が認められはじめた日までの平均日数は98日であった。前頭洞口狭窄は前頭洞炎と過去に鼻手術歴のある例において多かった。多変量解析では前頭洞炎のみ有意な因子であった。経口ステロイド投与例で有意に狭窄例が多かったが,これはこの中に前頭洞炎例を多く含むことによるバイアスと考えられた。また,キチン製材によるパッキング例では,施行例と非施行例との間に有意差を認めなかった。前頭洞口閉塞例に対しては外来で再開放してステント留置(2例)または入院再手術(1例)を施行した。今回の検討により,EMLP後の前頭洞口狭窄の危険因子は,前頭洞炎と過去の手術歴であることがわかった。経口ステロイド投与とキチン製材によるパッキングは今回の投与期間,留置期間においては有効ではなく,今後有効な保存的な狭窄予防方法の考案が望まれる。

症例報告
  • 石神 瑛亮, 鈴木 慎也
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 4 号 p. 625-630
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    鼻副鼻腔内反性乳頭腫の治療はmargin studyを行い,適切な基部の処理を行って完全に切除する必要があり,術前に内反性乳頭腫を想定することが重要であるが,上顎洞内に限局する内反性乳頭腫の場合,術前診断が困難な場合もある。今回,歯性上顎洞炎に合併し,診断に注意を要した鼻副鼻腔内反性乳頭腫例を経験したので報告する。症例は62歳男性で,左歯性上顎洞炎に対して,当院口腔外科にて抜歯と上顎洞洗浄を施行されたが,副鼻腔CT検査で左上顎洞陰影の改善が乏しいため,当科に紹介となった。CTでは左上顎洞に限局した軟部陰影を認め,慢性炎症の遷延と考え,クラリスロマイシン,カルボシステイン投与による保存的治療を3ヵ月施行したが,その後のCTによる再評価では軽度改善がみられたが上顎洞陰影は残存していた。また,左上顎洞外側壁の限局的骨肥厚と軟部陰影の形状に着目し,内反性乳頭腫の存在を考慮したが,生検は困難な部位であった。さらに造影MRIで評価したところ脳回様構造を認めたため,CTの所見と合わせて内反性乳頭腫が疑われた。そのため全身麻酔下にendoscopic modified medial maxillectomy(EMMM)を行い,内視鏡下に上顎洞に存在した腫瘍を摘出した。病理組織学的検査で内反性乳頭腫の診断であり,術後1年5ヵ月の時点で再発は認められていない。本症例のように歯性上顎洞炎と内反性乳頭腫を併発している場合があり,CTやMRIによる画像検査を行うとともに,常に他の疾患を併発している可能性を考えて診療にあたる必要がある。上顎洞内に限局する乳頭腫の場合,術前の生検が困難な場合もあり,CT,MRIは術前評価に重要である。

  • 藤本 康倫, 西池 季隆, 影山 悠, 馬塲 庸平, 一瀬 綾花
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 4 号 p. 631-636
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    内視鏡下経鼻手術による再発下垂体腫瘍摘出時に内頸動脈損傷を生じた2例を経験したので報告する。症例1:60歳代女性。左海綿静脈洞部内頸動脈からの出血に対し,綿片による圧迫での一時止血の後フィブリノーゲン液を浸した酸化セルロースを挿入し補強した。術後仮性動脈瘤を認めバルーン閉塞試験により虚血耐性は境界域と判断されたため左内頸動脈コイル塞栓術及び左浅側頭動脈–中大脳動脈バイパス術を施行した。症例2:80歳代男性。右海綿静脈洞部内頸動脈からの出血に対し,綿片による圧迫後大腿から採取した挫滅筋肉片を用いて止血した。術後仮性動脈瘤を認めバルーン閉塞試験により虚血耐性ありと判断されたため,右内頸動脈コイル塞栓術を施行した。2症例ともに新たな神経学的合併症なく自宅退院した。内視鏡下経鼻手術中の内頸動脈損傷は,まず綿片によるポイント圧迫で出血を抑え,引き続き挫滅筋肉片を用いて圧迫止血を行うことでコントロール可能と考えられた。出血部位に発生する仮性動脈瘤に対しては脳の虚血耐性を考慮した上で速やかにコイル塞栓術による内頸動脈血流遮断を行う必要があり,耳鼻咽喉科医,脳神経外科医,麻酔科医,看護スタッフなど各診療部門間のスムースな連携が重要である。

  • 木勢 彩香, 洲崎 勲夫, 関野 恵里子, 丸山 祐樹, 上村 佐和, 浜崎 泰佑, 平野 康次郎, 嶋根 俊和, 小林 一女
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 4 号 p. 637-644
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    顎変形症は上顎骨や下顎骨の形態や大きさの異常により両者の不均衡が起き,咬合不正や顔貌の変形を来す疾患である。顎矯正術は顎変形に伴う咬合異常の改善と顎顔面の生理学的なバランスをとることを目的に行われる手術療法であり,本邦では歯科口腔外科医や形成外科医により施行されることが多い。代表的な術式として上顎に対してLe-Fort I型骨切り術,下顎に対して下顎枝矢状分断術,下顎枝垂直分断術やオトガイ形成術などの術式がある。上顎骨を上方に移動した場合には術後に鼻腔形態異常による鼻閉症状を来す可能性があるとされる。今回われわれは,顎矯正術後に鼻腔形態異常を来し,高度な鼻閉症状を呈した症例に手術加療を行うことで改善した2症例を経験した。両症例ともに,顎矯正術の影響と考えられる鼻中隔軟骨の前弯および総鼻道の容積の狭小化が鼻腔形態不良の原因として顕著であり,外鼻変形を伴わなかったことからhemitransfixion approachによる鼻中隔矯正術と両側粘膜下下鼻甲介骨切除術を施行し,鼻腔形態と自覚症状の改善が得られた。顎矯正術のうち,Le-Fort I型骨切り術に代表される上顎骨を移動させる術式では鼻腔形態異常を来す可能性があり,治療に際しては,個々の症例に合わせた術式の検討が必要である。

  • 原 麻梨子, 菊田 周, 佐藤 拓, 近藤 健二
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 4 号 p. 645-650
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    上口唇から刺入し上顎洞と翼口蓋窩を貫通し蝶形骨にまで達した異物症例を経験したので報告する。症例は74歳女性で,自宅で転倒し鉄製の園芸棒が上口唇右側へ刺入したため救急搬送された。受傷時の意識は清明で,軽度の側頭部痛以外の自覚症状は認めなかった。頭部単純CTでは上口唇右側より刺入した園芸棒が上顎洞前後壁を貫通し,蝶形骨大翼まで達していることが確認できた。異物先端の形状が不明であることに加え,引き抜く過程での髄液漏,大量出血,異物の破損等の危険性を考慮し,明視下での異物除去を試みた。全身麻酔下に上顎洞内部を貫通する園芸棒を内視鏡で確認したが,異物を引き抜いた後に,棒先端のゴム製キャップが翼口蓋窩に遺残していた。そのため追加で遺残物を内視鏡下に摘出した。摘出後の経過は良好で創部からの出血や感染は認めなかった。後日,同種品と比較し,異物に破損がないことを確認した。口唇から頭蓋方向への経路には,三叉神経第II枝,顎動脈,視神経管が存在する。そのため,これら構造物の副損傷の有無の正確な把握が,適切な治療法を選択するうえで肝要である。先端形状が不明な異物の場合は明視下で除去を試みること,さらに摘出後は異物の破損がないことを同種品で確認することが体内遺残のリスクを減らすうえで望ましい対応と考えられる。

  • 吉田 晴郎, 吉田 光一, 北岡 杏子, 木原 千春, 黒濱 大和, 熊井 良彦, 松尾 孝之
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 62 巻 4 号 p. 651-657
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー

    骨形成性線維腫(OF: Ossifying fibroma)は,線維性骨異形成症とともに線維性骨病変に分類される良性腫瘍である。今回,副鼻腔領域の中でも稀な前頭洞のOF症例を経験した。症例は45歳女性で,右前額部から右眼にかけて発赤および腫脹を認め,眼球は大きく前下方に偏位し複視を伴っていた。副鼻腔単純CTでは,右前頭洞内にまだら状の石灰化を伴う腫瘤性病変があり,前頭洞の外側から眼窩内に伸展する嚢胞性病変を伴っていた。前頭蓋底手術を考慮した上での全摘術は同意されず,生検による診断確定後に,整容面と嚢胞の位置を考慮して側頭部から前頭洞外側の骨を削除し嚢胞の開放を行った。現在,術後2年以上経過しているが,OF病変の増大傾向はみられず,眼症状の再燃や感染も認めていない。

    OFに確立された治療指針はなく,特に今回のような前頭洞の症例では,整容面の問題に加え,前頭蓋底や眼窩壁などにより手術操作が制限され,切除範囲には難渋することが多い。一方で,増大傾向がない症例では慎重な経過観察も選択枝になるため,完全切除できる部位と大きさであるかを判断することが最も重要と考えられる。そのためにも,OFを含む線維性骨病変の特徴をよく理解し,複数の科と連携し,アプローチ法,手術に伴う侵襲性,増大時に予想されるリスク等を考慮し,患者ごとに最適な治療方針を立てる必要があると考えられた。

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