発病を機に看護師を退職した患者は,死の言動,家族の希望の優先や元医療者として良い患者を演じるという言動が多く,社会的苦痛が強いために自分の思いを表出できていないと考えていた。しかし患者から手渡された愛用のナースピンをきっかけに,患者の言動がスピリチュアルペインを表出していると考えるようになった。そこで,患者の言動の意味を村田の終末期患者のスピリチュアルペインの3つの構造「時間存在」「関係存在」「自律存在」を通し,考察することで,患者が抱えていたスピリチュアルペインの構造を知ることとした。患者が家族の思いにこたえる,医療者と良好な関係を保つという社会的苦痛と捉えていた言動は,孤独になる不安や恐怖の回避,つまり「関係存在」のスピリチュアルペインであり,また愛用のナースピンを手渡すという行動はこれからも看護師であり続けたいという「時間存在」のスピリチュアルペインが多く混在していることがわかった。