日本農村医学会雑誌
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原著
中山間地域における地理情報システム (Geographic Information System) を用いた生活習慣病の受療行動解析
濱野 強木村 義成武田 美輪子山崎 雅之塩飽 邦憲
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2011 年 60 巻 4 号 p. 516-526

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抄録

 中山間地域の医療体制は,経営の不採算性や医師不足などを背景に診療科や病棟の縮小,閉鎖を余儀なくされている。このため,地域医療を維持していくために住民ニーズに合わせた二次医療圏の地域医療計画が必要であるが,住民の受療行動に基づく実証研究は少ない。そこで,個人承諾を得た島根コホート研究により,地理情報システムを活用して高血圧症,脂質異常症,糖尿病の受療行動を医療機関への移動距離と移動時間に基づき解析した。対象者は,2009年に島根県雲南市大東町,加茂町で実施した健康調査で,現病歴,通院医療機関,職業,移動手段について有効回答を得た高血圧症255名,脂質異常症114名,糖尿病42名である。糖尿病治療者の医療機関への移動距離,移動時間は,高血圧症治療者に比べて有意に長く,糖尿病での市外への通院先は糖尿病専門医による治療や透析治療が可能であった。ただし,糖尿病治療者の雲南市外と市内の対象者間でBMIや耐糖能には,有意な差がなかった。また,年齢別の解析では,74歳以下の治療者が75歳以上の治療者に比べて糖尿病と高血圧症で移動距離と移動時間が有意に長かった。以上より,中山間地域の糖尿病患者や前期高齢者は,二次医療圏を越えて通院する傾向が示された。ただし,隣接二次医療圏間の連携強化や治療の質の標準化,さらには患者の自己管理を総合的に支援するディジーズマネジメントプログラムの検討により二次医療圏内の既存の医療資源で対応できる可能性が推察された。

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© 2011 一般社団法人 日本農村医学会
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