抄録
我々は,2種類の嫌気性歯周病原性菌を起炎菌とした脳膿瘍症例の治療経験を報告する。症例は45歳男性。20XX年6月1日頃から左上肢脱力と感覚異常が出現し,近医を受診した。頭部CT画像上,脳梗塞の診断で抗血小板薬が投与された。左半身麻痺の増悪を認め,当科に紹介入院となった。頭部MRI経過から脳膿瘍診断に至り,小開頭脳膿瘍排膿術が施行された。嫌気性菌膿瘍では30%で起炎菌を証明できないことから,複数の検体を採取し,2種類の嫌気性歯周病原性菌が検出された。重度歯周病の診断がされ,歯性菌血症からcorn-cob構造の菌複合体が脳皮質に到達して膿瘍を形成したと推測された。術後14週間の抗菌剤治療に並行して口腔ケアと計画的歯科治療を行ない良好な転帰を得たが,抗菌薬選択と投与方法に再考の余地があった。