2010 年 47 巻 1 号 p. 54-58
Hyperlexiaおよびambient echolaliaの報告は稀であり,それらの経過を調べた報告はない.今回我々は69 歳女性で左前部帯状回および脳梁に病変のある脳梗塞症例に対して反響誘発試験を試み,hyperlexiaおよびambient echolaliaの経過を調べたので報告する.本症例は失語症および認知症はなかったが,視覚性探索反応,右手の道具の強迫的使用,脳梁離断症候群を認めた.最も特徴的な現象としてhyperlexiaおよびambient echolaliaを認めた.この症例に対し脳梗塞発症1 カ月,2 カ月および6 カ月後に,目の前に本棚を設置することによる視覚刺激と擬似院内放送を流すことによる聴覚刺激の2つの条件下でそれぞれ10 個の口頭質問を行い,hyperlexiaおよびambient echolaliaの誘発の有無を調べた.Hyperlexiaは発症 1 カ月および2 カ月後に誘発されたが,ambient echolaliaは発症1 カ月後にのみ誘発された.本症例のhyperlexiaおよびambient echolaliaが,左前部帯状回および脳梁損傷による外部刺激に対する脱抑制反応が軽減したことに伴い,消失に転じた可能性が考えられた.