抄録
症例は80歳,男性.下部直腸癌の手術目的に当科へ紹介された.下肢の虚血症状はなかったが,大動脈瘤の既往と大腿動脈の脈拍に左右差を認めたため大動脈造影を施行した.右総腸骨動脈は造影されず,右大腿動脈は左大腿動脈から直腸壁の血管を経由して造影されていた.直腸癌手術に伴う側副血行路離断による右下肢虚血を考慮し,右下肢への血行再建先行後に直腸癌根治手術を行った.術後合併症なく,経過良好であった.術後3年を経過して再発を認めていない.閉塞性動脈性硬化症などの基礎疾患を有する患者では,直腸癌手術に伴い下肢壊死や死亡するなどの重篤な合併症が起こりうることが報告されている.本症例の如く下肢虚血症状がない場合でも既往歴や理学所見にて動脈疾患が疑われる患者では,大動脈造影にて骨盤から下肢への血行動態を評価し,下肢血行再建術先行を念頭に置いて直腸癌手術にあたるべきである.