2015 年 76 巻 5 号 p. 998-1003
症例は86歳,女性.主訴は,数年前からの食後上腹部不快感と嘔吐.胸部X線検査にて左胸腔内に異常ガス像を認めた.上部消化管内視鏡検査では,胃の変形が高度で,胃体中部から幽門側への内視鏡到達は困難であった.上部消化管造影および胸部CT検査では,横隔膜上の縦隔内に全胃が軸偏位を伴って脱出していた.Upside down stomachを呈したIII型食道裂孔ヘルニアと診断し,腹腔鏡下に胃還納,食道裂孔縫縮,メッシュ留置による食道裂孔の補強,噴門形成術を施行した.術後経過は順調で,再発は認めていない.食道裂孔ヘルニアは比較的頻度の高い疾患であるが,軸捻転を伴うupside down stomachを呈したIII型食道裂孔ヘルニアは稀な疾患であり,今回われわれは腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.