2016 年 77 巻 2 号 p. 328-332
症例は70歳,男性.嚥下困難を主訴に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,下部食道の壁内転移を複数認める進行食道胃接合部癌と診断された.化学療法としてS-1/docetaxel療法を4コース施行し,原発巣の縮小,食道壁内転移巣の消失を認めたため,手術(胸腔鏡下食道切除,後縦隔胃管再建術)を施行した.切除標本は,主病巣の大部分は変性壊死した癌細胞となり,一部に残存する腺癌組織を認めた.食道壁内転移部では,癌細胞は認めず瘢痕化していた.術後S-1による化学療法を1年施行し,術後5年無再発で経過中である.予後不良と考えられる食道壁内転移を有する食道胃接合部腺癌に対し,術前S-1/docetaxel療法が奏効し根治手術を施行し,良好な経過が得られた症例を経験した.