2018 年 79 巻 8 号 p. 1747-1752
患者は75歳,男性.腹部造影CTにて肝S4/8に肝細胞癌を認めた.基礎疾患に完全内臓逆位症を認めていた.完全内臓逆位例では血管系の変異が多いとされており,本症例でも肝動脈の変異を認めたが,術式は外科切除により根治切除可能で,脈管変異の影響を受けることなく完遂可能であると判断し,腹腔鏡下肝切除を施行した.術後は合併症なく良好に経過し,第8病日に退院となった.完全内臓逆位症例であっても,術前より脈管の解剖学的変異の影響の有無を把握して手術計画を十分に立てておくことで,安全に腹腔鏡下肝切除を施行することが可能と思われる.完全内臓逆位症に対する腹腔鏡下肝切除の報告はほとんどなく,文献的考察を加えて報告する.