2019 年 80 巻 12 号 p. 2190-2195
患者は62歳,男性.多発性骨髄腫に対して化学療法中に発熱を認めた.造影CTで,回盲部周囲膿瘍と,その内部に断裂した虫垂を認め,穿孔性虫垂炎と診断し,緊急で回盲部切除を施行した.術後創傷治癒は良好であったが,発熱と下痢が遷延した.術直前に提出したサイトメガロウイルス(以下,CMVと略記)アンチゲネミアが高値であることが判明したため,CMV腸炎と診断しバルガンシクロビルを投与した.翌日には解熱し下痢も軽快した.摘出検体では,回腸末端に膿瘍と交通する深い潰瘍を認め,病理組織学的には潰瘍周囲にCMV感染細胞を認めた.臨床経過・病理結果から,CMV腸炎による回腸穿孔を契機に,虫垂は二次的に断裂したと考えられた.
本症例は術前に穿孔性虫垂炎と鑑別することは困難だった.免疫不全患者の消化管穿孔では,頻度は少ないがCMV腸炎も鑑別に挙げ,診断,治療につなげる必要がある.