2019 年 80 巻 3 号 p. 491-498
乳腺腺筋上皮腫は稀な乳腺腫瘍である.基本的には良性腫瘍に分類されるが,摘出標本が良性の腺筋上皮腫と診断されても局所再発や遠隔転移を発症した症例が報告されている.今回,乳頭および皮膚浸潤が疑われた乳腺腺筋上皮腫の1例を経験したので報告する.症例は80歳,女性.右乳腺腫瘤および右異常乳頭分泌を主訴に当科を受診した.右乳腺BDE領域に最大径5.2cmの腫瘤を触知し,乳頭陥凹と皮膚の発赤・浮腫を認めた.マンモグラフィでは境界明瞭平滑な分葉形の高濃度腫瘤を認め,皮膚の肥厚と乳頭陥凹を伴っていた.超音波検査では境界明瞭粗造で内部に嚢胞様構造を伴う分葉状の低エコー腫瘤を認めた.針生検では乳腺腺筋上皮腫と診断されたが,皮膚や乳頭への浸潤が否定できず乳房全切除術を施行した.摘出標本の病理組織診断では,皮膚への腫瘍細胞や炎症細胞の浸潤はなく,嚢胞様構造内の出血や皮下血腫を伴った良性の腺筋上皮腫であった.