2021 年 82 巻 1 号 p. 180-186
症例は56歳の男性で,胸部食道癌手術の前処置としてグリセリン浣腸を行ったところ強い肛門痛と少量の出血をきたした.症状はすぐ軽快したため,予定通り手術室へ搬入した.全身麻酔導入時に少量の赤色尿を認めたが血液検査やバイタルサインに異常を認めなかったため,予定通り手術を施行した.術中尿量は0mLであり,術後も無尿が続いた.急性腎不全と診断し術翌日から持続的血液濾過透析(CHDF),また溶血性腎不全を念頭にハプトグロビンの投与を開始した.術後10日目までCHDFを行い,その後も血液透析を行った.腎機能は徐々に改善し術後27日目に退院し,術後2カ月で腎機能は正常化した.グリセリン浣腸は汎用されているが,その重篤な合併症としての急性腎不全は頻度も低く,十分に認識されているとはいえない.本症例のように重篤な合併症を引き起こす可能性があることを医師だけでなくその他の医療従事者も知っておく必要がある.