2024 年 74 巻 2 号 p. 67-74
【目的】鍼の切皮に関しては痛みが起きにくい方法や用具を検討した研究があるが、 新人と熟練者で技術の差が大きいとされる刺入手技に関する研究はみられない。 そこで本研究では、 患者の呼吸に合わせて刺入する方法を取り上げ、 呼吸運動が鍼刺入時の機械的抵抗に及ぼす影響について調べた。 【方法】7名の被験者を対象に、 鼻孔付近の温度変化によって被験者の呼吸状態をモニターしながら腰部の刺入抵抗を測定した。 刺入抵抗の測定には特製の鍼刺入抵抗測定器を用いた。 本器は鍼を一定の速度で刺入し、 そのとき鍼にかかる力をヒズミゲージで検出し電圧として出力するものであり、 その値を刺入抵抗とした。 次に腰部の刺入抵抗測定中に被験者に呼吸を止めてもらい、 呼吸停止前・停止中・呼吸再開後の刺入抵抗の変化を観察した。 さらに通常呼吸時の大腿部の刺入抵抗を測定した。 【結果】呼気と吸気が切り替わるのに同期して腰部の刺入抵抗が変化する現象が見られた。 その変化は呼吸停止と同時に消失し、 呼吸再開とともに再現した。 大腿部では呼吸に同期して刺入抵抗が変化する現象は見られなかった。 【考察】腰部では、 呼吸の変化と鍼刺入抵抗の変化には極めて高い相関 (r=0.81, p<0.05) があった。 また刺入抵抗の変化が呼吸停止と同時に消失し、 呼吸再開とともに再現したことから、 呼吸による刺入抵抗の変化が観察されたと考えられる。 このような刺入抵抗の変化は、 筋の収縮・弛緩に伴う硬さの変化が要因と考えられ、 呼吸と同期する機序として自律神経系の関与あるいは呼吸時に特異的に活動する筋の影響が示唆された。 しかし今回、 大腿部では刺入抵抗性の変化や呼吸に同期した腰部の筋活動が観察されなかったことからさらなる検討が必要である。