抄録
重症患者における人工呼吸法のこれまでの歴史的な進歩の一つは自発呼吸努力と人工呼吸器をうまく同調させることであった.自発呼吸努力との同調性がよい人工呼吸モードの発展は患者の快適性を改善し,人工呼吸器と自発呼吸の不同調による肺合併症の発生を減少させてきた.人工呼吸器の発展によって人工呼吸中の鎮静薬の使用量を減らせたことは集中治療を必要とする患者の予後の改善につながっている.このように重症の急性呼吸不全での換気モードの選択と換気条件の設定は自発呼吸の温存法や自発呼吸努力との同調性に重点が置かれてきた.しかし,近年,重症ARDSの発症早期に48時間筋弛緩薬投与下に人工呼吸を行うと予後を改善する可能性が示唆された.急性呼吸不全患者における筋弛緩薬の使用が見直されており,自発呼吸努力自体にも肺傷害の発生と関連がある可能性が検討されている.われわれのグループでも動物実験で肺傷害の程度によっては自発呼吸努力の調整も必要である可能性を示した.人工呼吸モードの選択や人工呼吸設定時に自発呼吸努力をどのように扱うべきかを中心に考えてみたい.