抄録
背景 : 乳腺基質産生癌 matrix-producing carcinoma (以下, MPC と略記) は特殊型乳癌の一つで, 発生頻度は全乳癌の 0.03~0.2%とされている. 今回, 乳腺基質産生癌の 1 例を経験したので細胞学的および病理組織学的検討を加え報告する.
症例 : 53 歳, 女性. 左乳房 C 領域に腫瘤を自覚し前医受診. 精査を勧められ当院乳腺外来を受診. 穿刺吸引細胞診所見ではヘマトキシリンに染色される粘液様の軟骨基質を背景に, 弧在性の細胞や小型~大型の細胞集塊がみられた. 細胞集塊は 3 種類あり, 上皮性を考える細胞集塊と軟骨腫様の細胞集塊, そして軟骨様基質を伴う上皮細胞集塊も認められた. 組織学的には腫瘍の辺縁には癌腫が存在し, 腫瘍中心部には軟骨基質を認めた. この二領域は移行しており, 両者の間には紡錘形細胞や破骨型巨細胞の介在は認められないことから, MPC と診断された.
結論 : 上皮性細胞集塊, 軟骨腫様細胞集塊, そしてその移行像が同時に確認できたときは, MPC との推定は可能であると考えられた. MPC は一般的にホルモンレセプター/HER2 陰性という報告が多いことから, 本組織型を推定することは治療方針の適切な決定の一助となると考えられた.