抄録
喀痰細胞診中に二種の相異なる異型細胞の出現を認め, 小細胞癌と扁平上皮癌の肺重複癌と考えた81歳, 男子の症例に遭遇した. 約半年後, 本例を剖検する機会があり, 二種の癌の存在を確認し得た. 生前に重複癌と診断されることは極めて稀なことである.
本例を通して, 第1に肺重複癌は比較的稀であり, 臨床像から両者を見い出すことは極めて困難であること, 第2に本邦では扁平上皮癌と腺癌の組み合わせが多く, 欧米では扁平上皮癌と小細胞癌の組み合わせが最も多いことがわかった. 第3に今後肺重複癌の発生率は増加するものと考えられるので, 肺癌と診断するさいに一応重複癌を念頭におく必要がある. 第4に胸部X線写真にて多発病巣をみた場合には安易に転移ときめつけず第2の癌の存在も疑って積極的な検査が必要である. そして最後に, 喀痰中に出現するおのおのの細胞の発生母地や病巣部位をより正確に抽出することは, 手術を含む治療上必要なことであることなどが理解された. 生前の喀疾細胞診で肺重複癌と診断され, 剖検にて確認された症例は極めて少ない. そこで, 生前の細胞学的所見を中心に, 剖検所見の概要を述べ, 若干の文献的考察を行った.