日本臨床細胞学会雑誌
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乳腺穿刺吸引細胞診における注射器洗滌液の検討
阿倉 薫畠中 光恵椛澤 みどり綾田 昌弘岡本 茂古川 順康弥生 恵司
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1991 年 30 巻 6 号 p. 1037-1042

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抄録

乳腺穿刺吸引を行い直接塗抹標本 (直接標本) を作製した後の注射器および注射針に細胞が遺残しているかどうか, またその細胞が診断に役立つかどうかの検討を行った.総数320例中217例 (67.8%) に細胞が遺残していた. 直接標本よりもあきらかに多数の細胞が認められたのは25例 (7.8%) であった. 直接標本のうち10例は不良標本で満足のいく判定が不可能であったが, そのうち9例は洗滌液からの標本 (洗滌標本) に細胞が認められ判定可能であった.直接標本および洗滌標本ともに細胞の認められなかったのは1例のみであった. 洗滌標本のみで悪性と判定しえた症例が1例あった.洗滌液として生食とサコマノ氏液を比較検討した.その結果, 洗滌と同時に固定作用の働くサコマノ氏液の方が細胞の保存は良好であった.しかし両方法ともに細胞集団は立体化がおこり, 細胞も軽度の変性傾向がみられるため洗滌標本の判定には注意が必要であった.
注射針への細胞の遺残の原因は, 現在使用されているディスポの注射針が針基の内部にわずかに入り込んで盛り上がっているために, 穿刺物が針と針基のくぼみに入り込んでしまい直接塗抹時には押し出されず針基の内部に残ってしまうことが原因であった. 直接標本を作製した後の注射器および注射針を洗滌し細胞を集めて標本を作製することにより判定不能例が減少し洗滌標本を作製することは有用であった.

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