抄録
境界病変の概念につき, 概説を加えた.一般に, 境界病変に含まれるものの中では, 良・悪性判定不能病変が中心であるが, ある種の良性腫瘍あるいは一部の癌も含まれることがある.これは臓器ごとに境界病変がうけもつ病変の範囲に微妙な違いがあるためである.良・悪性の境界に位置するという意味での定型的な境界病変の例としては, 子宮頸部高度異形成をあげることができる.良性病変が境界病変として位置づけられているものに, 胃生検における第III群 (Group III) がある.胃癌取扱い規約によれぼ, 第III群は「良性と悪性の境界領域の病変」と定義され, WHO分類でadenomaとよばれている異型病変 (良性腫瘍に分類されている) も含まれる.他方, 子宮内膜異型増殖症は, 腺癌を含んでいる.子宮内膜病変では上皮内腺癌は単なる理念上の存在であり, 実態としては異型増殖症の一部を構成している.以上に記したごとく, 境界病変の内容は個々の臓器や病変ごとに各論的にとらえる必要がある点を十分に認識することが肝要である.