抄録
印環細胞を主体とした子宮内膜原発粘液腺癌の1例を報告する.患者は29歳時に子宮頸部の前癌病変にて60Co照射を受け, 32歳で閉経した婦人科的既往歴をもつ64歳女性.画像診断にて卵も巣腫瘍が疑われ, 子宮卵巣全摘出術をうけたが, 腫瘍は肉眼的に嚢胞状に拡張した子宮にあった.その子宮内腔面の捺印細胞診を行った.そして孤立性ないし集合性に, 淡くオレンジGに染まる粘液を豊富に有する印環細胞を伴う腺癌細胞を多数認めた.核は大略類円形であるが, 大小不同や不整形核もみられた.通常1個の明瞭な核小体もあった.組織学的には, 粘液産生の旺盛な高円柱状細胞の乳頭状増殖と面積的に優勢な印環細胞の無構造充実性増殖巣の混在する腫瘍であった.子宮頸部や卵管卵巣に腫瘍はなかった.子宮内壁のごく一部には萎縮上皮や粘液化生上皮もみられた.術前の諸検査にて他臓器に原発巣を示唆する所見はなかった.以上の臨床病理学的所見より, 印環細胞を主体とした子宮内膜原発粘液腺癌と診断した.印環細胞主体の子宮内膜粘液腺癌の報告は, われわれが調べた限り, 国の内外を問わず, 見当らない.本患者において, 一部で粘液化生上皮がみられたが, 放射線治療の影響による卵巣萎縮と早期閉経, つまり女性ホルモンの急激な減少の出現が内膜上皮の粘液化生の引金として作用した可能性がある.