日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
入院中の知的能力障害者間での他害行為により生じた両側口角裂傷の1例
西川 聡美加納 慶太村山 高章山本 俊郎金村 成智秋山 茂久森崎 市治郎
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2018 年 39 巻 1 号 p. 33-37

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抄録

知的能力障害とは,知的機能の障害が発達期に現れ,日常生活に支障が生じているため,なんらかの特別な援助を必要とする状態にあるものと定義されている.知的能力障害者は知能の発達が遅れているだけではなく,生活にかかわる能力も制限され,個人および集団生活に困難を抱えている.成人では,社会でのコミュニケーションと自己管理能力にも問題を生じることがある.

本症例では,精神科病院に入院中で高齢の知的能力障害者間で,菓子パンの取り合いから喧嘩となり,自験例患者の口腔内に加害者の右手拳が挿入された結果,両側の口角に裂傷を生じ,数時間後に紹介されて当科を受診した.来院時には患者は落ち着いた状態で,口角裂傷の他に異常所見はなかった.裂傷部の縫合処置を行い,創部の経過は良好で,受傷後15日目で当科終診となった.

知的能力障害者の問題行動には,対人関係の障害,自傷,他害,突発的行動などがある.こういった行動は日常的に発生していると推測され,口腔外傷も潜在的に起きていると考えられるが,医療機関を受診することが少ないためか同様の報告例はほとんど見当たらない.自験例のような報告例を集めることで,知的能力障害者の問題行動と関連した口腔外傷の全容が明らかになってくると考えられる.また,このような外傷の発生を防止するためにも,知的能力障害者の問題行動と口腔外傷の実態を把握し,歯科医療サイドからの情報提供,助言や支援を行っていくことは重要と考えられる.

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© 2018 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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