2018 年 39 巻 1 号 p. 28-32
18p-症候群は,18番染色体短腕の欠失により生じる染色体異常症候群であり,精神遅滞や言語の遅れが報告されている.また,全身麻酔に関しては心臓血管疾患の評価が推奨されている.われわれは精神遅滞と肺高血圧症を有する18p-症候群患者の全身麻酔管理下での下顎埋伏智歯抜歯術を経験したので報告する.
患者は22歳男性で,かかりつけ歯科医で下顎両側埋伏智歯周囲炎の診断を受けた.歯科医は患者の行動を管理することが困難と判断し,当院口腔外科に紹介され,行動管理目的に全身麻酔管理下での抜歯が計画された.
本症例は精神遅滞と肺高血圧症を有する18p-症候群患者であった.そのため,心臓血管内科医に術前の循環動態の評価を依頼し,麻酔中の循環動態の管理についても入念に術前検討を行った.また,精神遅滞に伴う興奮による循環動態の変動を防ぐために麻酔前後の行動管理の方法に関して小児科医とも十分に協議した.
入室時の興奮を避け,肺血管抵抗の上昇による肺高血圧症の悪化を避けるために鎮静下で手術室に入室した.肺高血圧症の管理に準じた麻酔管理下で下顎埋伏智歯抜歯を行った.
本症例を通じて,精神遅滞と肺高血圧症を有する18p-症候群患者に安全な全身麻酔下での治療を行うためには,患者の精神愛護に配慮し循環動態の変動を避けることが重要であり,その周術期の管理計画立案については各専門診療科医との術前の協議が不可欠であると考えられた.