日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
切除不能胃癌にて化学療法中の患者への感染根管治療が奏功した1例
森田 浩光中島 正人山口 真広
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2018 年 39 巻 2 号 p. 148-153

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抄録

癌化学療法に際し,直径5~6mmを超える慢性歯根囊胞を有する歯は,急性化や血行感染予防のため化学療法前に抜歯もしくは感染根管治療を完了することが推奨されている.今回,ステージⅣの切除不能胃癌患者に対する化学療法中に,直径5mmを超える大きな根尖病巣を有する歯に対し,感染根管治療により保存できた症例を経験したので報告する.

患者は71歳の男性.切除不能胃癌(ステージⅣ)と診断され,2015年5月から当院外科にて化学療法(S1/CDDP療法)施行予定となり,化学療法中の口腔管理のために当科紹介となった.当科初診日に,エックス線写真撮影を含む口腔内精査を行い,に直径5mmを超える大きな根尖病巣を発見した.抜歯適応と考えられたが,これまで当該歯に自覚症状はなかったことから保存を強く望んだため,感染根管治療を行うこととした.は良好な経過を辿ったため,初診日から3カ月後に根管充塡を行った.全身的にも化学療法が功を奏し,8カ月後のPET-CT検査によりリンパ節転移を含めた病巣の縮小化がみられた.その後,XELOX療法に変更され,急激な白血球減少に伴い口腔粘膜炎が発症し,粘膜炎に対する処置を要したが,すべての化学療法の期間を通じて,に再感染や症状などは現れなかった.以上の結果より,癌化学療法中でも急性症状がなく適切な感染根管治療を行えば,大きな根尖病巣を有する感染歯を保存できる可能性が示唆された.

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