抄録
フラボノイドの前駆体であるカルコンとフラボノイドは機能性成分として近年注目されている.トマトはカルコンおよびフラバノンを蓄積する植物の一つであるが,これまでトマトにおけるカルコンおよびフラバノン代謝物の分子多様性は研究されていなかった.そこで我々は液体クロマトグラフィーフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(LC-FTICR-MS)を用いた矮性トマト品種マイクロトム果実でのカルコンおよびフラバノン代謝物の詳細なプロファイリングを行ない,エリオジクチオール(ED)およびエリオジクチオールカルコン(EDC)がトマト果実に含まれることを初めて見出した.26 種類のカルコンおよびフラバノン配糖体が検出され,LC-FTICR-MS により得られた分析情報を基に配糖体構造が組成式・構造式レベルで明らかになった.ED/EDC 配糖体はナリンゲニン/ナリンゲニンカルコン配糖体と同様な配糖化パターンを示した.カルコンおよびフラバノンは,果肉と比較して果皮に高蓄積していた.登熟にともなう量的変化を見ると,breaker,turning,および red という各登熟段階で最大蓄積を示す 3 つのグループに大別できた.配糖体構造をもとにこの量的変化を代謝系路上に重ね合わせてみると,カルコンおよびフラバノンは果実登熟開始とともに増加を開始し,登熟の進行にともなって段階的に修飾されていることが明らかになった.