抄録
ツツジ属の葉緑体 DNA の遺伝性に及ぼす主要因を解明するため,ヤマツツジ列に属する 5 種 1 変種の総当たり交配を行い,得られた実生の葉緑体 DNA の遺伝性を PCR-SSCP 法を用いて調査した.まず,PCR-SSCP 法によって総当たり交配に用いた種の多型の検出を試みたところ,ミヤマキリシマ(Rhododendron kiusianum)とフジツツジ(R. tosaense)との間では葉緑体 DNA 多型が得られなかったが,その他の種間ではプライマーを選択すれば葉緑体 DNA を識別することができた.調査した 28 組合せすべてで葉緑体 DNA の母性遺伝が観察され,そのうち 16 組合せでは父性遺伝も観察された.オオヤマツツジ(R. transiens)を種子親に用いた場合には比較的高頻度(33.3%~87.5%)で葉緑体DNAの父性遺伝が観察されたが,花粉親に用いた場合のそれはフジツツジとの組合せを除き,8.3%以下と低かった.それとは対照的に,オオシマツツジ(R. kaempferi var. macrogemma),ミヤマキリシマおよびタイワンヤマツツジ(R. simsii)を種子親に用いた場合,葉緑体DNAの父性遺伝は12.5%以下と低頻度であり,これらの種を花粉親に用い,他の3種(オオヤマツツジ,フジツツジ,ヤマツツジ(R. kaempferi))と交配した場合,ヤマツツジ×オオシマツツジの0%を除き,45.0%~90.9%と,高頻度で葉緑体DNAの父性遺伝が観察された.