抄録
ニホンナシおよびマルメロの花芽形成時の芽から摘出した微小な組織を用いて,シロイヌナズナの花芽形成関連遺伝子である LFY および TFL1 相同遺伝子の発現様式を調査した.調査は LFY および TFL1 それぞれ 2 種類ずつある相同遺伝子に対して 32 および 37 サイクルの RT-PCR によって行った.今回の分析条件では,ニホンナシおよびマルメロのそれぞれ 2 種類の LFY 相同遺伝子の発現様式に果樹種間および相同遺伝子間で違いはみられなかった.また,これら相同遺伝子の発現部位はこれまでの発現解析の結果とも一致していた.2 種類の TFL1 相同遺伝子はそれぞれの果樹種で異なる発現様式を示した.ニホンナシの芽では,未分化時に PpTFL1-1 と PpTFL1-2 の両者が発現しており,花芽分化が開始すると PpTFL1-2 の発現はみられなくなり,PpTFL1-1 だけが継続して発現していた.一方,マルメロの芽では CoTFL1-1 のみが未分化時に発現しており,花芽分化が開始する前にその発現はみられなくなった.花芽分化開始とともにドーム状の茎頂部において CoTFL1-1 と CoTFL1-2 の両者が発現し,その後,茎頂部が花原基へと発達するとそれらの発現は再びみられなくなった.ニホンナシの花芽分化開始後における PpTFL1-1 の継続的な発現は,その総状花序の形成に関与しているものと考えられた.さらに 2 種類の TFL1 相同遺伝子の発現様式の違いから,果樹種間および相同遺伝子間でそれぞれの相同遺伝子の役割が分化している可能性も考えられた.これら果樹種の花芽分化の誘導や花序の形態形成を理解する上で,TFL1 相同遺伝子は重要な遺伝子であると考えられた.