抄録
アスパラガスの葯由来カルスから再分化したシュートには倍数体や異数体が含まれていることが予想されるが,発根率が極めて低く,染色体観察による倍数性の判定は困難である.そこで,育種材料として重要な倍数体を培養中に判別するために,シュートを材料としたフローサイトメトリー分析(FCM)を行った.供試した 110 個の葯由来シュートのうち,83 個体が二倍体,21 個体が四倍体,3 個体が八倍体,3 個体が 4x と 8x の混数体であった.また,長径 1~1.5 mm の花蕾からの処理区において最も多くの倍数体と混数体が得られたことから,四分子に分かれる前の花粉母細胞の分裂核が融合した可能性も考えられた.FCM によって同定した倍数体のシュート(葉状茎および茎)の気孔長を走査型電子顕微鏡(SEM)により調査した.その結果,成熟度別に分類した場合に,倍数性による明確な差が示された.茎と葉状茎の気孔長は,倍数性が高まるにつれて有意に長くなった(P < 0.001).また,葉状茎よりも茎が,未成熟よりも成熟個体の方が,有意に長い気孔を有していた.未成熟組織の気孔を SEM により観察した結果,孔辺細胞が表皮細胞より低く沈み,未発達であると考えられた.また,圃場栽培植物よりも培養シュートが,雌株よりも雄株の方が長い気孔を有することが明らかになった(P < 0.001).これらの結果から,アスパラガスの気孔の長さは,雌雄,生育環境および発達段階などによって影響を受けることが明らかになり,それらの要因をできる限り取り除けば,気孔長は倍数性を特定する信頼の高い指標となることが示唆された.