抄録
遺伝子導入したカンキツの花や果実における評価を迅速に行うため,CiFT 共発現システムを開発した.CiFT 遺伝子と解析目的の遺伝子を共発現させるため,解析用キメラ遺伝子断片を,P35S::CiFT 遺伝子を持つバイナリーベクターへ挿入して CiFT 共発現ベクターを構築した.このシステムをカラタチ(Poncirus trifoliata L. Raf)における香気性成分代謝改変に利用した.カンキツの主要な香気性成分であるリモネンの含量を低下させるため,ウンシュウミカン(Citrus unshiu Marc.)から単離されたリモネン合成酵素遺伝子 1(CitMTSE1)を,アンチセンス方向で CiFT 共発現ベクターを用いてカラタチへ導入した.遺伝子導入植物は著しい早期開花性を示し,アグロバクテリウム感染後 2 年以内に結実を開始した.遺伝子導入植物の花や果実では導入遺伝子の転写物が蓄積し,内生のリモネン合成酵素遺伝子の転写物が減少していた.また遺伝子導入植物の花や果実では,他のモノテルペンに対するリモネンの割合が明らかに低下していた.これらの結果から,CiFT 共発現システムはカンキツの花や果実における遺伝子機能解析に有効な研究ツールであり,このような解析は,カンキツの香気性成分代謝改変を始めとする応用研究にも重要であると考えられる.