2010 年 79 巻 2 号 p. 150-155
これまでの研究で,我々は果実の甘渋性を支配する AST 遺伝子座に連鎖した分子マーカーを単離しているが,これらのマーカーは‘黒熊’由来の交雑集団に対して有効でなく,育種計画において実用的なマーカーではない.そこで本研究では,育種計画の中で簡便かつ確実に完全甘ガキ個体を選抜するための新しい sequence characterized amplified region(SCAR)マーカーの開発を試みた.完全甘ガキ個体と非完全甘ガキ個体の間で多型を示す新たな restriction fragment length polymorphism(RFLP)マーカーである 5R 領域を‘西村早生’,‘次郎’および‘黒熊’由来交雑後代のゲノムライブラリーから単離して解析した結果,3 つの大きな欠損・挿入変異が ast 連鎖領域と AST 連鎖領域の間で確認された.そのうちの 1 つである Indel-3 の近隣にいくつかのプライマーを設計し,SCAR マーカーとしての有効性を検討したところ,2 つの forward primer(AST-F と PCNA-F)と 1 つの reverse primer(5R3R)の組み合わせで行う multiplex PCR が最も有効で確実な方法であることが分かった.AST 対立遺伝子に連鎖する 220 bp の断片は‘黒熊’,‘西村早生’および‘会津身不知’のいずれの品種の後代でも共通に検出されることが示された.この multiplex PCR は,カキ育種における最も実用的で応用可能なマーカー選抜法であり,この方法によりカキ育種の進展は飛躍的に向上するものと考えられる.