抄録
永年性作物である果樹の休眠現象をはじめとして,さまざまな作物の生理に気候温暖化の影響が報告されている.本研究では,暖冬時にみられるニホンナシ‘豊水’休眠芽の発芽不良・花芽のネクロシス発生の要因解明に関して,暖冬時を想定した低温(≦7.2C,600 時間)の遭遇開始時期(3 段階)・その経年履歴(2 段階)を異にしたポット植え樹を用いて,混合花芽中の水動態や休眠中の形態学的・生物季節学的変化から解析を試みた.本研究における低温処理(暖冬条件)は自発休眠打破には有効であったが,低温遭遇の開始時期が遅れるほど発芽不良・花芽のネクロシス現象が多発する傾向であり,混合花芽の基部の形態学的変化(子持ち花)により小花の数も増えた.そして暖冬条件が累積するほど花芽のネクロシス現象が早く発生した.本研究の条件下では休眠中の小花の増加は開花数の増加をもたらさなかった.暖冬条件下の休眠芽中の水の動態を MRI 観察すると,十分に低温遭遇した樹の休眠芽に比べて,特に鱗片の自由水(T2)・水分含量(PD)とも明らかに低位であった.くわえて暖冬条件下の経年履歴が長くなるほど休眠芽基部において PD 値および T2 値が局所的に増加しており,その増加が休眠芽内における求頂的水移動の支障がネクロシス発生と関連し,さらに子持ち花の形成と関係すると推察された.