抄録
栽培イチゴ(2n = 8x = 56)は収益性が高く,世界的に重要な農産物であり,より優れた品種を育成するため,多くの育種家がしのぎを削っている.しかし,高い関心を集めているにも関わらず,QTL 解析を利用した DNA マーカー選抜育種は二倍体作物に比べて非常に遅れており,この原因はイチゴのゲノム構造が未解明の高次倍数性(八倍体)であることにある.この 10 年で DNA マーカー技術は大きく進歩し,遺伝研究,連鎖地図作成および系統解析は急速に進展しつつある.一方で,生鮮イチゴの広域流通量が増加するに従い,イチゴの育種家は,育成品種に対する権利をより強く意識するようになってきている.許可なく栽培された果実を検出する必要性から,簡易で再現性の高い品種識別技術の開発が求められている.本総説では,著者らが開発したゲノム特異的マーカーを中心に,栽培イチゴにおける最近の DNA マーカー研究の進展を紹介する.