Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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原著論文
アジサイにおける花房型の遺伝様式
上町 達也奥村 麻未
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2012 年 81 巻 3 号 p. 263-268

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抄録
アジサイの花序は,装飾花の着生数と着生位置に基づき額咲き型と手まり咲き型に分別される.著者らは 1999 年 7 月 6 日に丹波高地の東部地域に自生するヤマアジサイ群落で手まり咲き型の花序を着生した変異体を見つけた.この手まり咲き型花序は 200 個の小花で構成されており,そのうち 80%は装飾花であった.この野生群落に自生する,変異株以外の 86 株の個体の花序を調査したところ,いずれの花序も装飾花は花房周縁部にのみ着生しており,額咲き型と手まり咲き型の中間的な表現型を示すものは認められなかった.これらの結果は,額咲き型の野生群落における手まり咲き型形質の発生が,装飾花の着生数の多い個体が増えていくことによる段階的な過程を経てもたらされるのではないこと,すなわち花序型の変異は量的ではなく質的な変化であることを示唆している.1 つの額咲き型品種と 2 つの手まり咲き型品種を用いて花序型の遺伝様式を調査した.額咲き型と手まり咲き型の交雑により得られた F1 世代はいずれも額咲き型の花序を着生した.F2 世代における額咲き型と手まり咲き型の分離比はほぼ 3 : 1 であった.交雑試験の結果,花序型はメンデル遺伝を示し,単一の遺伝子により制御されることが明らかとなった.花序型を制御する遺伝子の機能を解明することを目的に,3 組の花序型変異系統と原品種を供試し,額咲き型と手まり咲き型の花序の構造を比較した.‘Blue Sky’と‘SK-1’では,額咲き型から手まり咲き型への変異に伴い,花序内の小花の着生数と 2 次花序の着生数が減少した.またいずれの品種においても,手まり咲き型花序の花序軸は額咲き型に比べて長かった.これらの花序構造の変化と花序型制御遺伝子の機能との関係を明らかにするために,さらなる研究が必要である.本研究によりアジサイにおける花序型の遺伝様式が明らかとなった.本研究結果はアジサイの効率的な育種に寄与するものと考えられる.
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© 2012 園芸学会
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