抄録
CPPU 処理したトレニアにおける花形変化と花芽内のサイトカイニンシグナルの分布との関係を明らかにするために,サイトカイニンのシグナル強度の指標として,サイトカイニンの初期情報伝達系遺伝子であるタイプ A レスポンスレギュレーター遺伝子(TfRR1)および内生サイトカイニンにより発現が調節されるサイトカイニン酸化酵素遺伝子(TfCKX5)の発現の変動および花芽内での発現領域の分布を解析した.定量 PCR の結果,両遺伝子とも,がく,花弁,雄ずい,雌ずいのいずれの花器官においても,CPPU 処理後 1 日目から発現が大きく上昇し,花芽に CPPU 処理による初期の形態変化が認められる 5 日目まで高い発現が維持され,その後低下した.また,in situ hybridization による解析の結果,TfRR1 および TfCKX5 とも,無処理の花芽ではいずれの花芽発達ステージにおいても,雄ずいおよび雌ずいで弱い発現が見られた.これに対して,幅広い副花冠が誘導されるがく片伸長期の花芽に CPPU 処理を行った場合は,副花冠の発生位置である雄ずい原基の背軸側で強い発現が見られた.細長い副花冠が誘導される花弁伸長初期の花芽に CPPU 処理を行った場合には,雄ずいの基部ならびに副花冠の発生位置である花弁の基部から中央部にかけて強い発現が見られた.また,これらの発現は,副花冠原基の発生期には,原基の発生部位に,より強く局在化した.一方,花弁の鋸歯が誘導される花弁伸長中期の花芽に CPPU 処理を行った場合には,維管束の配列パターンの変化と,それに伴って鋸歯が形成される花弁の中央部から先端部にかけて強い発現が見られた.以上の結果から,CPPU 処理による花形の変化は,持続的なサイトカイニンシグナルの上昇により引き起こされ,また,副花冠および花弁の鋸歯は,それらが形成される花芽内の特定の部位でサイトカイニンシグナルが高まることによって誘導されることが示唆された.