抄録
本研究では,細胞接着性に重要であるペクチンとホウ素が,落花,落果過程の離層における細胞接着・構造維持にどのような働きを持つかについて調査した.本研究の材料には,タバコ(Nicotiana tabacum)の品種 Bright-Yellow 2 の花柄を用いて,離層におけるホウ素量およびペクチン–ホウ素架橋形成率を測定した.また,花柄および離層におけるペクチン–ホウ素架橋形成に重要である NtGUT1 とホウ素輸送隊である NtNIP3;1 の発現解析を行った.全ホウ素量は,つぼみ,果実のいずれにおいても花柄より離層に多く存在していたが,水溶性ホウ素および架橋に関連するホウ素量ともに違いはなかった.ペクチン–ホウ素架橋形成率は,ステージの進行に伴い上昇傾向にあるが,つぼみ,果実のいずれにおいても花柄と離層で同程度であった.NtGUT1 と NtNIP3;1 の発現解析では,開花直前の花の離層において NtGUT1 の発現量が上昇していた.しかし受粉阻止処理をした場合,人工授粉処理をした花の離層でホウ素量および発現に変化はなかった.これらの結果から,ホウ素が離層に多く存在し,また,ステージの進行に伴った増加をすることが示された.しかし,これらは受粉や器官脱離とは大きな関係はないと考えられる.