抄録
霧島山系のミヤマキリシマ,ヤマツツジおよびこれらの自然雑種個体の花冠を用いてアントシアニジン構成と色素合成遺伝子の発現を比較した.自生地と比べて,樹高や花色を含む表現形質の特徴は,挿し木で増殖後,移植した個体に変化がなかった.花色調査より,ミヤマキリシマは紫色系を,ヤマツツジは赤色系を示したが,これらの自然雑種は,赤色系または紫色系を示した.HPLC によるアントシアニジン分析では,一部の個体を除くミヤマキリシマと自然雑種はシアニジン系およびデルフィニジン系の両色素を有していたが,ヤマツツジはシアニジン系色素のみを有していた.しかし,シアニジン系色素のみを有していたが紫色系花色を呈するミヤマキリシマと,シアニジン系およびデルフィニジン系の両色素を有していたが赤色系花色を呈する自然雑種個体があり,これらはコピグメンテーション効果の有無による影響が考えられた.また,リアルタイム PCR による発現解析では,全ての個体で F3′H,DFR,ANS 遺伝子が発現していたのに対し,F3′5′H 遺伝子はデルフィニジン系色素を有する個体で必ず発現していた.これらの結果より,ミヤマキリシマや自然雑種個体におけるデルフィニジン系色素の蓄積には,F3′5′H 遺伝子の発現が必要不可欠であることが示唆された.本研究より,紫色系花色と赤色系花色の野生種の間における種間交雑で,色素構成およびアントシアニン色素合成関連遺伝子の発現が多様化したことが野生集団の花色の多様性を生み出しているものと示唆された.