抄録
雄性不稔性の花粉退化の機構を生理学的に追求しようとして, タマネギ, ネギ, カンラン, ダイゴン, トマトトウガラシの雄性不稔株と正常株の葯, 雌性器官, 葉などの組織中に含まれる遊離アミノ酸をペーパークロマトグラフ法により分析し比較した。
1. 開葯直前の正常葯からは, タマネギで17種, ネギで15種, カンラン, トウガラシで14種, ダイコン, トマトで13種の遊離アミノ酸およびアマイドが認められた。花粉の稔性や品種によつて違つた種類のアミノ酸が検出されるようなことはなかつたが, 各蔬菜とも不稔覇の proline のスポットは, こん跡程度かまたは全く検出されず, その含量は正常葯にくらべると極端に少なかつた。タマネギの不稔葯の asparagine は proline 同様に, 正常葯よりずつと少なかつた。
2. 花粉の発育段階が第1分裂中期から第2分裂後期にあたるトマトの若い葯からは, 不稔葯, 正常葯ともproline はこん跡程度しか検出できず, その他のアミノ酸組成にも花粉の稔性による差はみいだせなかつた。
3. 各蔬菜とも開葯直前の花の雌性器官や開花期の葉に含まれるアミノ酸組成は, 不稔株でも正常株でも同じであつた。
4. 上述したような開葯直前の葯組織に含まれるproline の量と花粉の稔性との関係, あるいは, 花粉の発育段階と proline が葯組織から検出される時期との関係などから, 雄性不稔性植物では, 花粉の退化とアミノ酸代謝との間に密接な関係があるものと推察された。