抄録
筆者らはさきに果菜類の微量要素栄養におよぼす培養液濃度の影響を調べ, 濃度の高まりにより葉中のMn含量が著しく低下することを認めた. そこで本実験においてMn吸収におよぼす培養液濃度の影響に関与する機作について調べた.
トマトの幼植物およびその分離根を, 幼植物の場合は24時間, 分離根の場合は3時間それぞれ54Mnでラベルした処理液で培養してMnのとりこみを調べた. ホーグランド液からのMnの吸収は濃度の高まりにより指数函数的に低下した. 各葉位葉身へのとりこみのパターンも影響をうけ, 濃度の高まりにより, 活発な生理作用を行なつていると思われる上位葉へのとりこみが減少した. また高濃度培養液の作用は急激な濃度変化による一時的なものではなく, さらに浸透圧の作用よりも塩類そのものの作用が大きいことが認められた. 一たん根に入つたMnの地上部への移行は培養液濃度の影響をほとんど受けなかつた. つぎに, 分離根によるMnの吸収も濃度の高まりに伴なつて指数函数的に低下した. 培養液のMn濃度とMn吸収速度の関係を 1, 3, 5 倍液について調べたところ, 塩類高濃度液はMnの吸収を競合的に阻害することが認められた. そこで 1, 3, 5 倍液の増濃度分について K, Ca, Mg のいずれかをNaにおきかえた液からの分離根のMn吸収を調べた. KまたはCaをNaにおきかえると高塩類培地の影響が軽減され, MgをNaにおきかえるとMnの吸収は一層低下した. また 1, 3, 5倍液で3日および9日間前培養したトマトの分離根の1倍液からのMn吸収は前培養液の濃度の影響をうけ, 5倍液で前培養した根のMn吸収量は対照区の70%に低下した.
以上の結果から, 培地の塩類高濃度によるMn吸収の低下は高濃度に存在する塩類とくにKやCaとの競合的な拮抗作用によりもたらされるものと考えられるが, 処理期間が長い場合は高濃度液による根の代謝異常も無視できないであろう.