抄録
キュウリ果実の低温障害の発生機構を細胞内顆粒のレベルで解明する目的で, ショ糖密度こう配遠心分離法によって細胞内顆粒を分離し, 密度こう配中での顆粒標識酵素活性の分布パターンを調べた. ここでは, 特にミトコンドリアの酵素を中心に低温障害との関係を考察した. 貯蔵は果実を有孔ポリエチレン袋詰とし, 1°Cあるいは15°Cに保った.
1. 低温障害の症状としては, ピッティングが1°C貯蔵5日ごろから認められた. 1°C3日では外観は健全であり, これを15°Cに移しても明確な症状は現れなかった. 15°Cでは7日後も健全な外観であった.
2. 低温障害に伴う内的異常を示す指標として, 膜透過性の変化をみるため, キュウリ果肉切片からのK+イオン漏出速度を測定した. 1°Cでは直ちにK+イオン漏出速度が増大し始め, ピッティング発生に先立って膜透過性の増大が進展すると思われた. 15°C貯蔵果ではほとんど変化がなかった.
3. 1°Cに貯蔵したキュウリ果実のミトコンドリアのチトクロムC酸化酵素とリンゴ酸脱水素酵素の活性は, ピッティング発生に先立って低下した. すなわち, 低温によるミトコンドリアの機能低下が障害発生前に起こったと考えられる. 早期 (1°C 3日) に昇温すると, この活性の低下は回復した.
4. ミトコンドリアのNADHチトクロムC還元酵素は, 1°C貯蔵で活性が増大し, ピッティング発生果ではショ糖密度こう配中での分布が広がった. 15°C貯蔵果では活性が低下した.