抄録
ニホンナシ'豊水'のみつ症の発生機構の解明と防止技術の開発のために, 各種カルシウム剤カルモジュリン阻害剤等を樹上の果実に散布および果梗部へペースト塗布を行った.
1.ニホンナシ果実内のカルシウム濃度を増加させる薬剤として塩化カルシウム, 酢酸カルシウム, クエン酸カルシウム, グルコン酸カルシウム, Ca-EDTAを処理したところ, 散布では対照区と異ならなかったが, ペーストでは, みつ症の発生を抑えた.
2.みつ症多発園におけるCa-EDTAペースト処理は, 健全果率を4倍に増加させ, 重症果率を約6割減じることができ, 効果的にみつ症の発生を抑制した.このことから, Ca-EDTAのペーストによってニホンナシのみつ症を防止できる可能性が示唆された.
3.Ca-EDTAペースト処理はエテホンに由来するみつ症の発生を抑制した.
4.カルモジュリン阻害剤であるトリフルオペラジンは, 散布処理, ペースト処理ともにみつ症の発生を助長した.
5.Ca-EDTAペースト処理した果実のカルシウム含量は対照果実と比較してアルコール可溶性画分で高く, 緩衝液可溶性画分および塩可溶性画分では低かった. このことから, カルシウムの生体内の分布の違いがみつ症の発生と関係があるものと思われた.