抄録
ニホンナシにおける5個のS複対立遺伝子に対応した花柱特異的タンパク質(Hiratsukaら, 1995)の知見を元に, 新しく育成された品種を含む数品種の自家不和合性遺伝子型(S遺伝子型)を等電点電気泳動法によって推定した.推定された遺伝子型は, 圃場での交配試験によって確認された.'喜水'および'愛甘水'の花柱タンパク質のバンディングパターンは, それぞれ'新水'(S4S5)および'幸水'(S4S5)とほぼ同じであり, これらのS遺伝子型は交配試験によって明確に確認された.'筑水'は明らかにS3タンパク質をもっており, 4年間の交配試験を通じてS3S4遺伝子をもつ'新世紀'(S3S4)および'清玉'(S3S4)との結実率が劣っていたが, 完全に不和合性とは断言できなかった.'豊水'の花柱には豊富なS3タンパク質とS4またはS5と思われるバンドが認められた.そこで'長十郎'(S2S3), '青龍'(S2S3), '新世紀'(S3S4), '清玉'(S3S4)および'丹沢'(S3S5)との交配試験を行ったが, すべての組み合わせで和合性を示した.また, S3遺伝子をもつ品種の柱頭に'豊水'の花粉を交配し, S3ホモ接合体の可能性についても調査したが, これも和合性を示した.これまでに我々は'丹沢'の花柱タンパク質分析を行っていないため, '丹沢'のS遺伝子型については確信がもてないが, もしこの遺伝子型が正しいとするなら'豊水'のS遺伝子型はS3S6, S3S7あるいはS3S8と推定された.'長寿'のS遺伝子型はS2S5とされているが(安延ら, 1977), その花柱タンパク質中にはS1タンパク質と明瞭ではないもののS4またはS5タンパク質が認められた.しかしながら, '長寿'は'八雲'(S1S4), '明月'(S1S5)および'市原早生'(S1S5)と和合性を示した.これらの結果および'長寿'の育成経過から, そのS遺伝子型を考察した.