水文・水資源学会誌
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原著論文
わが国の天然水における酸素·水素安定同位体比
—環境同位体データベースを用いた解析—
町田 功近藤 昭彦
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2003 年 16 巻 5 号 p. 556-569

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抄録

アジア-太平洋地区の天然水の環境同位体に関するデータベースを構築した. 本論ではこのデータベースを用いて, 次の3つを目的とした解析をおこなった. 1つはわが国の天然水の“一般的な”同位体的特徴を明らかにすることであり, 2つめは同位体的特徴を気象学的·地理学的パラメータより算出するための予測式を統計学的に求めること, そして3つめは天然水のδ値を決定する主な物理過程を明らかにすることである. 相関行列や重回帰分析を用いた解析の結果, 浅層地下水, 河川水のδ値はその地域の緯度と風速を変数とする関数で表すことができた. この式の中の有力な変数である緯度は, 位置を表す指標であり, これは何かの物理パラメータの代わりに表れたように思える. δ値と地理学的·気象学的パラメータとの単相関解析結果は, δ値の決定には温度効果が支配的であることを示唆している. また, d値に関する予測式は日照時間の関数となった. GISを用いて日照時間の空間変化を表すと, それは“冬季にもたらされる降水量”の空間変化とよく似かよっている. 我が国では冬季には夏季よりもd値が高い降雨がもたらされるが, このことを考えると, “日照時間”というパラメータには, その地域にもたらされる降雨の性質という意味が含まれていると考えられる.

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© 2003 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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