水文・水資源学会誌
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16 巻, 5 号
Sep.
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原著論文
  • 森脇 亮, 神田 学
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 477-490
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    東京都大田区久が原の住宅街に気象観測用のタワーを建設して, 放射·熱·水·CO2フラックスを測定し1年間の連続データを得た. 晴天日のデータをもとに各フラックスの季節変化や時間変化, および, 潜熱フラックス, CO2フラックスに対する都市の構成要素の寄与を調べた. 主要な結果は以下のとおりである. 1) 無視しえない有意な潜熱 (ピーク時で夏季に200W m-2, 冬季に30W m-2) が都市から放出されている. 夏季は「庭木」が潜熱の主な蒸発源になっていると考えられるが, 200W m-2の潜熱全てを庭木で説明しようとすると, 森林の約2倍の潜熱が庭木から放出されていることになる. また「コンクリート」からの潜熱は無視し得ない大きさであり, 特に冬季にはその寄与度が相対的に大きくなる. 2) CO2は都市から大気に向けて放出されており, その大きさは夏季より冬季の方が大きい. 夏季はCO2フラックスに大きな時間変化はないが, 冬季は8時ころと16∼23時ころにピークが見られる. 特に冬のフラックスはCO2濃度の時間変化パターンに似ており, 地表からのフラックスがCO2濃度の時間変化に大きく影響している. CO2フラックスには「家庭からの人工排出」と「自動車交通」と「庭木」が大きく影響を及ぼす.
  • 森脇 亮, 神田 学, 菅原 広史
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 491-500
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    都市接地層内における熱·水蒸気·CO2輸送を把握するため, 東京都大田区久が原の住宅地にて長期観測を行った. フラックスの相関係数を用いてスカラー間の輸送効率を調べたところ, 以下のことが明らかになった. 1) 熱と水蒸気の輸送効率比は, 朝方大きく日中にかけて小さくなる傾向がみられる. 朝方の不安定時は, 大きなスケールの渦構造によって混合層上端からの乾燥空気が連行されることにより, 熱に比べて水蒸気が効率的に輸送されると考えられる. 2) 日中の定常と見なせる時間帯において, スカラー間の相関係数を比較したところ, 熱·水蒸気·CO2の順で輸送効率が悪くなる. スペクトル解析·ウェーブレット解析を用いて輸送効率に寄与する渦スケールの特定を行った結果, サーマルやシアー不安定による組織渦が熱, 水蒸気, CO2それぞれの輸送を担っている. しかし, これらの輸送イベントの各スカラー量に対する効果は同一ではない. その原因として, スカラー間の濃度分布の不均一性に差異があること, 熱がアクティブなスカラー量であるのに対し水蒸気·CO2が受動的なスカラー量であること, が理由として挙げられる.
  • 張 新華, 大石 哲, 石平 博, 竹内 邦良
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 501-517
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    破堤による洪水氾濫シミュレーションには二次元浅水方程式がよく利用される. シミュレーション結果は, 低解像度のDEMを利用した場合, 局所的な複雑な地形, 土地利用状況, 植生, 建物等の障害物を表現できないため, これらの影響を強く受ける. この問題に対して, これまで以下のような方法が用いられてきた. 1) 全領域に詳細なメッシュの使用 : この場合, 計算負荷は大きく, 制御不能な場合もある. 2) 任意間隔のメッシュの使用 : メッシュサイズが詳細であっても無意味なセルが残る. 3) local grid refinement method : 1) 2) の問題を軽減するために近年盛んに研究されているが, 細かいメッシュの計算に用いる境界条件として, 細かいメッシュと重なる粗いメッシュ上の値のみを用いるため, メッシュが重ならない部分に関する粗いメッシュの情報を十分利用していない. そこで本論文では, 対象領域内に窪地や高地, 或いは水面勾配が急激に変化するような局地的なメッシュをより正確に反映し, シミュレーション精度を改善するための新たなネスティング手法を提案した.
    二次元浅水方程式のマニング係数は, 地表面の粗度, 障害物等を表す係数である. そこで, 洪水氾濫原における植生, 建物等の影響をマニング係数に反映させる手法を検討した. 我々は, 解像度1mのIKONOS衛星データを用い, 画像解析ソフトウェア (ERDAS-IMAGINE) による教師つき分類から250m DEMのメッシュごとの植生, 建物の面積率を抽出した. そして, 以上の面積率に基づき, 氾濫原におけるメッシュごとの粗度係数を推定した.
    シミュレーションの結果より, 以下の結論が得られた. (1) 新たなネスティング手法の適用性が実証された. (2) 画像度1mのIKONOS衛星データより, マニング係数空間分布のパラメータ (面積率) を推定することができる. (3) 植生, 建物は氾濫シミュレーションに大きく影響する. (4) ポンプの作用は洪水氾濫状況を軽減するために非常に有用である. これらの結論は, 甲府盆地における笛吹川と荒川から得られた結果であるが, 他地点への適用性も有するものと思われる.
  • 小島 紀徳, 池田 裕弥, 加藤 茂, 松本 剛, 濱野 裕之, 岡田 直紀, 坪山 良夫, 斉藤 昌宏, 安部 征雄, 高橋 伸英, 山田 ...
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 518-526
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の最も重要な原因物質であるCO2の有効な削減策の提示が急がれている. 近年, CO2削減策の1つとして, 乾燥地植林による炭素固定が提案されており, 西オーストラリア州レオノラ地域で実証試験がなされている (安部ら, 1997; 松本ら, 2000; Yamada et al., 1999). そこで本研究では, レオノラ地域に自生する主要樹種の枝, 根中の水の安定同位体比分析 (δD, δ18O) を用い, 地下水や表層土壌水のそれと比較した. これから, Eucalyptus camaldulensisは地下水, Acacia aneuraおよびHakea preissiiは表層土壌水が主たる水源であることが推定された. 人工的に植林された樹木を含む, 様々な条件下で成育する種々の樹種について, 降雨の前後にかけて同様な測定を行い, 樹木の水源の変化についても考察した. その結果, 降雨に対する応答は, 樹種ばかりではなく, 樹木の環境条件によっても影響を受けることがわかった. 水条件に適した樹種を選択し, あるいは樹木に適した水条件を人工的に作り上げることにより, 限られた水を効率的に利用し, 効率的な植林が可能となると期待される.
  • —水理模型実験に基づく非定常数値解析モデルの提案—
    串山 宏太郎, 神岡 誠司, 山田 正
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 527-540
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    地下空間利用が進む大都市では, 雨水を排除する下水道管路は大口径, 大深度化し, 近年下流側をふかし上げる長大伏越し管路が出現している. しかし, 豪雨時には雨水流入による管路内の急激な水位上昇や空気の噴出による, 人孔蓋の浮上·飛散の発生の危険性が懸念されている. 今後増加が予想される長大伏越し管路は, 複数の流入地点や伏越し管同士の合流も考えられる一般系管路であることから, 非定常解析が可能なモデルを確立することが必要となる. そこで, 下水道管路で発生する非定常性の強い流況を再現できる数値解析モデルを提案した. これまで水だけを対象としてきた非定常計算モデルを改良し管内空気の挙動も合わせて解析する数値計算モデルを提案し, 筆者らが行った水理模型実験結果との比較検討を行った. 管内の水の挙動に関する基礎方程式に管内空気圧力の効果を加えた. 人孔開口部における管路内空気の排出特性については, 縮流効果を考慮するものとし縮流係数Cmを設定しtry and error計算により0.8程度が妥当と判断された. 伏越し管路が満管となった以後に管内に閉じ込められた空気の人孔への排出空気量は, 伏越し管路の空気圧力と人孔内空気圧力の差により算定するものとし, 伏越し管路から人孔へ空気移動について空気流出係数Cを設定し水理模型実験結果に近似した結果を得て, 0.3∼0.7の範囲に入ることが判った.
  • 朴 珍赫, 小尻 利治, 友杉 邦雄
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 541-555
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    近年, GIS技術の発展により, 量·質的に異なる多様なデータを位置座標と結びついたままで統一的に扱うことが可能となってきて, 水量と水質の空間的な分布特性を忠実に反映させる分布型モデルの構築が比較的容易となってきた.
    本研究の目的は, 流域環境評価をするために, GISをベースに, 水量流出過程, 水質移流過程の2過程を用いて, 量と質の観点から時系列的, 空間的に把握できる分布型流出モデルを展開するものである.
    本研究では, GISと連係して水量移流過程で取水·放水過程などの人為的な操作, 積雪·融雪過程, 水田流出過程などを取り込んで長期間及び短期間の降雨-流出計算を行い, さらに水温と河川での汚濁物質濃度を取り上げ, 量と質の観点から流域環境を時系列的, 空間的に把握できる分布型流出モデルを展開し, 自然条件およびスケールが異なる庄内川流域と琴湖 (Geumho) 川流域 (韓国) を対象に適用した. 従来のモデルと比べ, GISを用いた擬河道網の設定方法の改善, 河道とメッシュ位置情報の改善, 各種設定条件の精度向上, 浸透係数などのモデルパラメータの同定, 積雪·融雪過程及び取水, 放水などの人為的な操作などをモデルに組み入れてより再現性の高い結果が得られた.
  • —環境同位体データベースを用いた解析—
    町田 功, 近藤 昭彦
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2003 年 16 巻 5 号 p. 556-569
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/05/21
    ジャーナル フリー
    アジア-太平洋地区の天然水の環境同位体に関するデータベースを構築した. 本論ではこのデータベースを用いて, 次の3つを目的とした解析をおこなった. 1つはわが国の天然水の“一般的な”同位体的特徴を明らかにすることであり, 2つめは同位体的特徴を気象学的·地理学的パラメータより算出するための予測式を統計学的に求めること, そして3つめは天然水のδ値を決定する主な物理過程を明らかにすることである. 相関行列や重回帰分析を用いた解析の結果, 浅層地下水, 河川水のδ値はその地域の緯度と風速を変数とする関数で表すことができた. この式の中の有力な変数である緯度は, 位置を表す指標であり, これは何かの物理パラメータの代わりに表れたように思える. δ値と地理学的·気象学的パラメータとの単相関解析結果は, δ値の決定には温度効果が支配的であることを示唆している. また, d値に関する予測式は日照時間の関数となった. GISを用いて日照時間の空間変化を表すと, それは“冬季にもたらされる降水量”の空間変化とよく似かよっている. 我が国では冬季には夏季よりもd値が高い降雨がもたらされるが, このことを考えると, “日照時間”というパラメータには, その地域にもたらされる降雨の性質という意味が含まれていると考えられる.
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