2006 年 19 巻 5 号 p. 413-419
これからの富栄養化診断は単に富栄養化の程度を評価することだけではなく,富栄養化によって食物網構造や物質循環がどのように変化したかや今後どのように変化するかを予測し,その対策を模索することが重要になる.安定同位体自然存在比測定法はそうした解析に最も適した分析手法のひとつであることを,その特質を説明しながら紹介した.硝酸塩や植物体,一次消費者の窒素安定同位体比は,集水域に占める宅地や水田といった人為的土地利用の割合が増すに従って上昇する.このことは,高い同位体比の排水が河川に流入することが主たる理由であるが,脱窒やアンモニア揮散の影響も受ける.食物網構造から物質循環まで幅広く応用可能な安定同位体比は水文学と生態学の融合に必要な研究手法となるはずである.