中国内蒙古自治区の黄河上流域の圃場において蒸発による越冬水分損失量を評価した.本圃場では晩秋に230mmを超える貯水灌漑が行われたと推定されるが,翌春トウモロコシが播種された時点で,表土層100cm内に留まっていたのは約20mmにすぎなかった.その間,約40mmの降水があったが,蒸発によって約170mmが消失し,また灌漑時に80mm以上が帯水層内へ流下した.一方,Wang et al.(2006)は同圃場において,雨の少ない春から初夏にかけて約80mmが根域内へ毛管上昇によって移動すると推定した.結局,230mmを超える灌漑水のうち約100mmのみが圃場におけるトウモロコシ栽培に利用されたことになる.しかも,約170mmの蒸発量のうちかなりの部分は秋灌漑が行われたために起こったものと考えられる. 本研究で得られた結果は,黄河上流域の沖積谷における,地下水深が約-1mから-2mの範囲内にある地域で適用可能と思われる.