抄録
洪水予測といった実用上の観点から積雪層の貯留効果を考慮した融雪流出モデルはほとんどない.これまで筆者らは,積雪層の貯留効果を貯留関数法によってモデル化(以下,積雪浸透モデルと呼ぶ)し,その機構を組み込んだ融雪流出モデルを開発してきた.しかしながら,積雪浸透モデルは,融雪水の浸透をモデル化したもので,大雨時の浸透も表現できるか否かは検証されていない.また,融雪期全体の流出波形を再現し得る流出モデル定数を客観的かつ簡便に同定することが難しく,融雪流出モデルを適用する際の大きな障害となっている.
本研究では,まず,融雪期における大雨時の雨量とダム流入量の相互関係を分析し,融雪期の流出量を推定する場合,大雨に対しては積雪層の貯留効果はないと考えた方が合理的であることを示した.さらに,融雪期の比較的大きな規模の1出水で最適流出モデル定数が得られれば,複数年に亘って融雪全期間のハイドログラフを実用上十分な精度で再現できることがわかった.以上の結果,本研究で検討した積雪貯留に対する解析手法ならびに流出モデル定数の最適同定法は,融雪流出モデルの再現性と汎用性を向上させるのに有効であることが確認された.