2009 年 22 巻 5 号 p. 372-385
都市部では,地下への雨水の貯留・浸透能力が低下し,局所的な豪雨による内水氾濫が多発する傾向が指摘されている.都市における中小河川や排水区などの降雨に対する応答時間は非常に早く,都市型水害の発生を予測するためには精度よい短時間予測雨量情報が求められる.本研究では,Xバンドのマルチパラメータレーダ雨量情報(以下,MPレーダ雨量)を用いた降水ナウキャスト(以下,ナウキャスト)を開発し,1時間先までの降雨量予測の精度向上を図った.Xバンドのマルチパラメータレーダ(以下,MPレーダ)は比偏波間位相差に基づく精度よい降雨情報を提供するが,ナウキャストに用いるには強い降雨域の後方で電波の消散領域が生じるという問題や観測範囲が限られるという問題がある.本研究では,MPレーダ雨量と気象庁の全国合成レーダー・エコー強度GPV(以下,JMAレーダ雨量)を相補的に用いる合成手法を開発し,この問題を解決した.この方法によって得られた合成雨量(以下,MP-JMA合成雨量)はJMAレーダ雨量に比べて精度良く,気象庁レーダー・アメダス解析雨量と比較しても,同程度かそれ以上の精度であった.ナウキャストに対する合成手法の効果を調べるために,MP-JMA合成雨量とJMAレーダ雨量をそれぞれ初期値とするナウキャスト実験をおこなった.3つの事例について実験をおこなった結果,MP-JMA合成雨量を初期値として用いることにより,予測精度が向上することを示した.