地球温暖化による大雨日数の増加傾向を背景に,森林の洪水緩和機能が注目されている.本研究では,植生回復段階の異なる花崗岩流域において,総雨量150 mm以下の通常降雨イベントを対象としてパラメータを同定したタンクモデルを用いて,東海豪雨イベント(総雨量457 mm)のハイドログラフの再現計算を試みた.対象としたのは,裸地流域,裸地解消から約20年経過した植生回復流域,および森林流域の3流域である.その結果,裸地流域および植生回復流域のハイドログラフの再現精度は良好であったが,森林流域のハイドログラフはピーク流量が過小評価となった.土層の発達が進んでいない,裸地流域や植生回復流域では,通常の降雨規模においても地表流成分が卓越することが考えられ,通常降雨イベントで同定したタンクモデルで豪雨イベントのハイドログラフを精度良く再現できることが示された.一方,土層が厚い森林流域は通常の降雨規模では地表流はほとんど発生しないが,豪雨イベント時には地表流成分が増大すると考えられ,通常降雨イベントで同定したタンクモデルでは豪雨イベントのハイドログラフが再現できず,ピーク流量を過小評価することが示された.