抄録
地球温暖化のシナリオとして7つの仮想シナリオを設定し,気温上昇が冬季(11月~4月)の降雪量に与える影響を評価した. 既報(小川・野上, 1994)の降水形態判別気温と気象庁のメッシュ気候値を用いて,各シナリオの下で降水量を降雪量と降雨量とに分離し,集計して冬季降雪量を求めた. 結果として,平均的な状態(シナリオNo. 1)における降雪量の総量は,日本全体で約1319億tであった.気温上昇により,全ての気候区で絶対量としての降雪量は減少し,最も減少する場合(シナリオNo. 7)で549億tと見積もられた.また,冬季の降水量全体に対する割合も小さくなることが予想された.降雪量の減少は,積雪量の減少を経て春季の融雪量を減少させることが予測される.特に,降雪量の少ない東北東部や中部・北陸では,気温上昇によりかなり降雪量が減少するので春季以降の水資源の不足が懸念される. 今後は,本研究の成果を元に流域毎の水収支,及び気温上昇が流域水収支に与える影響の評価が望まれる.