抄録
過去の洪水データに基づく簡便な洪水実時間予測法として局所線形近似法(LL法)を提案した.この方法は,Nearest Neighbor法(NN法)と呼ばれるパターン認識的予測法の概念を拡張したものと見なせるが,カオス時系列予測のために開発された局所近似法と概念的に同じ方法である.現在に至る最新の水文量の変動に類似したパターンを過去の水文データから抽出し,これらのデータとこれに対応する流量との間に線形関係を仮定して逐次予測を行っていく方法である.また,水文量の変動パターンを表すためにNN法およびLL法で用いられる特徴ベクトルの最適次元数を,従来のAIC(赤池の情報量基準)などに基づく試行錯誤的方法より計算時間を大幅に短縮できるfalse nearest neighbor (FNN)アルゴリズムを用いて求めた.NN法およびLL法を岡山県北部の黒木ダム流域における33出水のデータに適用し洪水予測精度について検討した結果,NN法で特に問題とされたピーク付近における流量ハイドログラフの再現精度がLL法では大幅に改善された.また,ハイドログラフ全体でもタンクモデルにカルマンフィルターを組み合わせた従来の実時間予測システムに匹敵する予測精度が得られた.